大川入山 初冬の草原に群れる羊に会いに中央アルプス最南端を登山
目次
プロローグ
去る2018年12月。AM6:00に大川入山の登山口に立っていた。日の出まであと一時間あまり。周囲はまだ薄暗いが、幹線道路の近くで建物もあり全くの暗黒という事もない。あと30分もすれば空が徐々に明るくなってくるだろう。
大川入山は長野県にある標高1908mの山である。中央アルプスの最南端に位置し、治部坂スキー場や宿泊施設等があるレジャー施設に登山口が隣接する。昔はマイナーな山であったようだが、現在では山頂付近が熊笹で覆われた、眺望が美しく登りやすい山として人気が出てきている。
その昔、山の木が伐採されてから熊笹が繁殖して木があまり生えずに現在の姿になったらしい。山頂から眺める熊笹に覆われた山は抹茶饅頭のようで非常に美しいのだが、そのような話を聞かされると複雑な心境にもなる。
この山の真骨頂は初冬に訪れる。クマザサの草原にまばらに生える低く丸い木々が霧氷で覆われ、まるで草原に羊の群れがいるような風景が見られるのである。12月から雪が積るまでの短い期間に見ることが出来る光景であるが、羊の群れはこの時期に常に現れるわけでもなく、出会えるかは気象条件次第。この時期に訪れる登山者は皆この羊の群れを見たさにこの山に登るのである。
この冬は暖冬で、大川入山はまだ山道に少し雪が見られるのみで積雪はほとんどないようである(2019年1月8日現在)。もう少しだけ羊の群れに会えるチャンスはあるようだ。
さて、冒頭の登山口に立ったところに戻る。暗い中ヘッデンの明かりを頼りに登山道を登っていく。登山口からすぐは脇に歩道が作られているが、道自体はガタガタに荒れている。道を整備しかけて放棄したような形跡が残る山道だ。少し登ってからいったん降りて鉄製の足場を渡る。ここからが本当の登山道である。
アクセス・コース
登山口
治部坂スキー場の向かいに登山客用という事でもないだろうが駐車場がある。東屋等もあり休憩や準備に利用することも出来る。この駐車場はパッと見15台程度のスペースであるが、ここが満車でも向かいの治部坂スキー場駐車場は広大であるので駐車には困らないと思われる。登山口は駐車場から山に向かって舗装道路を歩くと5分ほどで到着する。
駐車場の隣にある蕎麦屋
近隣施設
道向かいには治部坂スキー場。駐車場の隣には十割蕎麦屋。またジャム屋や宿泊施設等があり一大レジャー施設が形成されている。また、少し南下した場所ある道の駅信州平谷はひまわりの湯という温泉があるので、この時期下山してから冷えた体を温めるのにちょうど良い。
道の駅 信州平谷
ルート地図
今回は立ち寄っていないが、山頂を通り抜けて200m程進むと展望のよい場所がある。天気の良い日は山頂から少し先に進んでみることをお勧めする。周りに広がるアルプスの山々が一望できる。
ルートタイム
大川入山登山口 ⇒ 46分 ⇒ 横岳 ⇒ 87分 ⇒ 大川入山 ⇒ 76分 ⇒ 横岳 ⇒ 30分 ⇒ 大川入山登山口
ルートデータ
- 出発時刻/高度: 05:55 / 1183m
- 到着時刻/高度: 10:09 / 1172m
- 合計時間: 4時間14分
- 合計距離: 11.54km
- 最高点の標高: 1877m
- 最低点の標高: 1172m
- 累積標高(上り): 761m
- 累積標高(下り): 761m
- 荷物重量 : MAX11kg
- 消費カロリー :2440kcal
- 消費水分 : 0.3l
- 摂取カロリー : 0kcal
持ち物
- ザック deuter FUTURA28AC
- 登山靴 mont-bell タイオガブーツ
- 手袋 mont-bellメリノウール メーカー不明防水手袋
- アウターウェア mont-bellウインドブラストパーカー
- 予備アウター mont-bellロッシュジャケット(未着用)
- ミドルレイヤー mont-bellクリマプラス100ジャケット
- ベースレイヤー mont-bellスーパーメリノウールexp
- パンツ mont-bellストライダーパンツ
- 靴下 mont-bell製
- 防寒着 UNIQLO ULTRALIGHTDOWN (未着用)
- レインウェア mont-bellレインダンサー(未着用)
- ストック メーカー不明(未使用)
- 滑り止め mont-bellチェーンスパイク(未使用)
- GPS GARMIN62S
- ヘッドライト blackdiamond spot
- カメラ NikonD7200 Nikon1J4
- レンズ TAMRON SP24-70F/2.8G2、SIGMA8-16mmF4.5-5.6、nikkor1 10-30PD、nikkor1 30-110
- 三脚 manfrotto befree advanced
- その他 帽子 行動食(ゼリー×2、パン×2、カロリーメイト×2)飲料水1.5L 救急セット 懐中電灯 予備電池 熊鈴 コンパス 地図 時計 携帯 財布 保険証 筆記用具 予備紐 ライター ビバークシート
登山レポ
登山口⇒横岳
鉄製の足場を渡ると沢沿いに登る山道となる。すぐに尾根にとりつくが、ここからが意外と急登。日の出までもう少し時間があるが、徐々に空が明るくなってきて、 網目の様に木の根がはる山道がヘッデンの明かりがなくても次第に見えるようになってくる。以前もここの山は登ったことがあるが、この尾根道は相変わらず木の根が見事である。
この山は横岳に至るまでは急登と歩きやすい緩やかな道を繰り返す。ところどころに進入禁止のテープが張ってあるので、そちらには入らないように気を付けなければならない。つい一年ほど前まで利用されていた登山道なのだが、以前から名物であった地面の穴が大きくなり、崩落の危険が出てきたため迂回路が作られた。5月に登った時は、迂回路が出来たばかりという事もあり急登で登りにくかったのだが、今ではよく踏まれて登山道らしくなっていた。足をかけるところも出来ており、急登ではあるがそれなりに登りやすい。
50分ほど歩くと横岳山頂に到着。山頂は草もなく、木々に囲まれていて風もしのげてしっかりしたベンチも設置されている。距離的にも休憩ポイントとしてちょうど良い。この辺りから木々に氷が付き始めてきた。羊に会えそうという期待が一気に膨らむ。特に疲れてもいなかったので休まずそのまま先に進んだ。
横岳からの稜線道は霧氷の森だった
横岳から先は緩やかなアップダウンを繰り返す歩きやすい稜線の山道だ。霧氷が着いた白い森を歩いていく。本来はところどころにある木々の切れ目から周りの山の景色を楽しめるはずであるが、ガスが濃くて眺望がほとんどない。
ガスで眺望はないが、白く凍った霧氷の森が美しい。気温は氷点下のはずだが、樹林帯は風も避けられるのでそれほど寒くない。時折木の間から吹き込むひんやりとした風が顔を撫でて気持ちがよい。しかし、このガスである。山頂付近の様子が気がかり。
残り2kmと1kmのポイントに標札がある。1kmの標札を越えてから少し登ると樹林帯から抜ける。
樹林帯を抜けると熊笹の草原に・・・そして山頂へ
樹林が薄くなってくると、風が強く感じられるようになってきた。霧氷の森に強風に乗ったガスが引っ切り無しに流れている。これも綺麗な光景だが、この調子で羊に会えるのか・・・
懸念したとおり、樹林帯を抜けて熊笹の草原に出ても一面真っ白で視界がない。20m先が見えるだろうかという状態。遮るものがないので凍り付くような強風にさらされる。寒い。
山道の脇にある木々は氷の白い花を咲かせている。笹原の向こうには間違いなく羊の群れがいるはずだが、まったく見えない。足元を見ると草も凍り付いていた。
登山口から2時間10分程で山頂に到着した。本来であれば、ここから笹に覆われた周りの山に羊の群れを見ることが出来るはずだが、この日は全く視界なし。中央アルプスや南アルプスの山々も当然全く見えず。
強風にさらされ体温を奪われる。この日初めて使ったベースレイヤーのスーパーメリノウールExpだが、速乾性はもう一つで少し冷たい。はじめは暑すぎるくらいだったが、汗をかく場面では同じモンベルのジオラインの方がよいようだ。このレイヤーはなるべく汗をかかないように気を付けなければならない。
羊の群れを撮るのに、持参したソフトシェルと防寒着を着込んでガスが晴れるのを待つか・・・と一瞬頭を過ったが、かなり風が強いので低体温症にでもなると危険だと判断し、すぐに下山を開始した。
下山開始
時折ガスが薄くなると、近くに生える白い木々が霞んで見える。羊だ。晴天であれば、草原に群れる姿を堪能できたはずだが残念である。相変わらずの強風にさらされ凍える。手袋はメリノウール製と防水のものを二重に着けているが、指先が凍えて痛い。足早に草原を降りた。
樹林帯まで戻るとすっかり風も収まり、凍えた指先も徐々に温まってくる。来た道を引き返すと、これから登る人たちと頻繁にすれ違うようになってきた。おそらく日が出て間もなく登り始めたのだろう。挨拶をかわしながらたまに山頂の状況を伝える。
横岳の手前の小ピークまで戻ってくると、ガスが少し晴れ始めた。ここにはちょっとしたベンチも設置されており眺望がある場所だ。ガスの向こうに霧氷に包まれた山が見える。白く輝く木々が美しい。
登山口まであと20分くらいのところまで戻ってきた。ふと大川入山山頂の方を向く。すると山頂にかかっていたガスが一気に吹き飛んでいく様が見えた。急いでカメラを向ける。こんな時に望遠レンズが欲しい。この時に山頂付近におられた人はきっと羊の群れに会えたに違いない。また登り返そうかとも考えたが、戻ってもガスが晴れている保証はない。おとなしく下山することにした。
下山後に道路から大川入山を仰ぎ見たが、やはりガスで山頂が見えなかった。ガスが晴れたのはあの一瞬だけだったようである。今回は残念な結果に終わったが、また来る楽しみが残ったと思うことにした。